2025年5月14日にNHK総合で放送される「歴史探偵」では、ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの二大傑作、「モナ・リザ」と「最後の晩餐」に隠された長年の謎に迫ります。
フランス・ルーブル美術館の全面協力のもと、特殊スキャン技術や高解像度画像解析、さらにはCG、VRといった最先端技術を駆使。
日本の研究者たちも参加し、ダ・ヴィンチの知られざる制作技術や深遠な思索の痕跡を鮮やかに浮かび上がらせます。
この記事を読めば、番組で解き明かされる「モナ・リザ」の微笑の秘密、スフマート技法の驚くべき詳細、「最後の晩餐」の革新的な空間構成、そして「万能の天才」と称されるダ・ヴィンチの「努力の人」としての一面や未完のプロジェクトに込められた情熱まで、その多岐にわたる魅力を深く理解できます。
歴史探偵:ダ・ヴィンチ、モナ・リザと最後の晩餐の謎
2025年5月14日夜10時からNHK総合で放送の「歴史探偵」は、レオナルド・ダ・ヴィンチの謎に満ちた世界を探求する45分の特別版です。
彼の代表作である「モナ・リザ」と「最後の晩餐」に焦点を当て、最新技術がどのようにしてこれらの作品の秘密を解き明かすのかを追います。
モナ・リザの微笑み 最新技術で解き明かされる真実!
世界で最も有名な肖像画「モナ・リザ」。
その神秘的な微笑みと柔らかな肌の質感は、長らく人々を魅了し続けてきました。
最新の科学技術は、この不朽の名作に隠されたダ・ヴィンチの驚くべき技法の秘密を明らかにしています。
フランス・ルーブル美術館の協力のもと、2022年に行われた科学調査では、特殊なスキャン技術や超高解像度の画像解析が導入されました。
これにより、肉眼では捉えられない絵画表面の微細なディテール、顔料の層の重なり、ダ・ヴィンチの繊細な筆の運び、そして極めて薄く塗り重ねられた絵の具のタッチまで克明に記録されたのです。
特に注目されるのは、ダ・ヴィンチが得意とした「スフマート」と呼ばれるぼかし技法です。
分析によると、彼は「モナ・リザ」の肌を表現するために、数ミクロンという極めて薄い絵の具の層を、気の遠くなるような回数塗り重ねていました。
これらの半透明の層が何十層にも及び、下の層の色と微妙に影響し合うことで、光が肌の表面を滑るように透過し、内側から発光するような独特の質感が生まれています。
頬や顎のラインには明確な線がほとんど見られず、色と光の微細な変化だけで立体感を巧みに表現していることも科学的に示されています。
さらに、X線解析や赤外線分光法といった非破壊調査では、新たな発見が相次いでいます。
絵画の最下層からは、プランボナクライト(鉛ナクル石)という希少な無機化合物が検出されました。
これは、ダ・ヴィンチが絵画の乾燥を早めるために、酸化鉛とアマニ油を混合して下地層を形成した際に意図せず生成された可能性があり、彼がこの技法を他の画家に先駆けて用いていたことを示唆します。
また、赤外線カメラは、当初モナ・リザがボンネットを被っていたことや、肩から「ガルネロ」と呼ばれる透明なベールを掛けていた可能性など、制作過程での変更点も明らかにしました。
日本の研究者チームは、AI(人工知能)や3Dモデリングを駆使して、この神秘的な微笑みが生まれるメカニズムを科学的に再現し、解明しようと試みています。
筆致や色彩変化をデータ化して再構築したり、顔の各パーツが微笑みの印象にどう影響するかを検証したりすることで、ダ・ヴィンチの意図に迫ろうとしています。
背景に描かれた幻想的な風景にも「空気遠近法」という技法が巧みに用いられ、遠くの対象物ほど色彩が淡く青みがかり、輪郭がぼやけることで、画面に深い奥行きを与えています。
この背景の場所については、イタリアのヴァル・ディ・キアナ渓谷であるという説も近年注目されています。
最後の晩餐をVRで体感!天才が仕掛けた驚異の構図
レオナルド・ダ・ヴィンチのもう一つの傑作、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院に描かれた壁画「最後の晩餐」。
イエス・キリストが裏切りを予告した直後の弟子たちの動揺を見事に描き出したこの作品は、その劇的な構図と心理描写で高く評価されています。
しかし、実験的な技法を用いたため、完成後すぐに劣化が始まり、オリジナルの姿の多くが失われてしまいました。
最新のCG(コンピュータグラフィックス)とVR(仮想現実)技術は、この損傷の激しい壁画を制作当初の鮮やかな姿にデジタルで復元し、ダ・ヴィンチが意図したであろう視覚体験を私たちに提供します。
壁画の3Dスキャンデータや残存する色彩情報、弟子の模写などを基に、壁や天井の構造、窓からの光の入り方、食卓の配置、そして13人の登場人物たちの身体の傾きや視線の交差に至るまで、あらゆる要素が仮想空間に精密に再現されます。
VRゴーグルを装着すれば、まるでその場にいるかのように、復元された「最後の晩餐」の空間を体験できるのです。
この作品の空間構成で最も重要なのは、一点透視図法の巧みな適用です。
画面内の全ての平行線は、イエス・キリストの右のこめかみ付近に設定された単一の消失点へと収束するように描かれ、鑑賞者の視線を自然と中央のイエスへと導きます。
VR体験を通じて、この画面構成全体が黄金比(約1:1.618)に基づいて配置されていることも視覚的に理解できます。
イエスを中心とした放射状の構図、12使徒の3人ずつのグループ分け、テーブル上のパンや皿の配置など、全てが緻密に計算され、画面に安定感とダイナミズムを与えているのです。
しかし、この傑作は大きな試練も経験しました。
ダ・ヴィンチは、従来のフレスコ技法ではなく、時間をかけて精密な描写ができるよう、乾いた壁にテンペラ絵具と油絵具を混合した独自の技法を用いました。
この革新的な試みが、皮肉にも湿気や温度変化に弱いという結果を招き、急速な劣化を引き起こしたのです。
1726年の最初の本格的な修復から、1977年から1999年にかけて行われたピニン・ブランビッラによる最も大規模で科学的な修復に至るまで、幾度となく修復作業が繰り返されてきました。
最新の修復では、過去の加筆が慎重に除去され、レオナルドの繊細な筆致や色彩がいくらか蘇っています。
努力の人ダ・ヴィンチ 未完の夢と探求心の軌跡
レオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の天才」として知られますが、その輝かしい業績の影には、絶え間ない探求心と試行錯誤を続けた「努力の人」としての側面がありました。
東京造形大学教授の池上英洋氏は、ダ・ヴィンチが抱えていたとされる「遅筆」「未完成作品が多い」「指示を無視する」といった「欠点」は、むしろ彼の徹底した探究心、完璧主義、そして既存の枠組みにとらわれない実験精神の表れであると指摘します。
彼の尽きることのない知的好奇心は絵画制作に留まらず、解剖学、工学、建築など多岐にわたりました。
ミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァのために計画した巨大なブロンズ製「スフォルツァ騎馬像」は、その代表例です。
馬だけで高さ約7メートルにも及ぶ壮大な計画でしたが、1499年のフランス軍侵攻により、鋳造のために用意されていた約70トンものブロンズが大砲に転用され、頓挫しました。
この幻の騎馬像は、日本の技術者たちの手によって復元され、名古屋国際会議場に展示されています。
ダ・ヴィンチの科学的探究の中でも特に重要なのが人体解剖学研究です。
生涯に30体以上の死体を解剖し、その観察結果を驚くほど精密な解剖図として残しました。
これらの解剖学的知識は、彼の絵画における人物の自然なプロポーションやダイナミックな動きの表現に活かされており、「モナ・リザ」の柔らかな手の表現や「最後の晩餐」の弟子たちの多様なポーズにその影響が見て取れます。
彼の手稿には、この他にもオーニソプター(羽ばたき式飛行機械)やヘリコプターの原型、戦車など、時代を先取りした発明のアイデアが数多く残されています。
その多くは未完に終わりましたが、東京造形大学などでは、これらの未完のプロジェクトを現代の3Dモデリング技術などで再現し、その価値を再検証する試みが行われています。
これらの探求は、ダ・ヴィンチが芸術と科学を分かちがたく結びつけ、ルネサンス的「万能人」の理想を体現していたことを示しています。
まとめ:ダ・ヴィンチの謎と最新技術について
「歴史探偵」では、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」と「最後の晩餐」という二大傑作に隠された謎に、最新科学技術を駆使して迫りました。
スフマート技法の秘密から、VRで再現される「最後の晩餐」の空間構成、そして「努力の人」としてのダ・ヴィンチの探究心や未完のプロジェクトまで、新たな視点から天才の実像が浮かび上がります。
彼の作品と探求は、500年以上経った今もなお、私たちに多くの発見と問いを投げかけています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント